1. はじめに:静かな退職とは何か?
「静かな退職(Quiet Quitting)」とは、会社を辞めるのではなく、与えられた仕事のみに集中し、それ以上の業務や努力を控える働き方のことを指します。具体的には、残業を避けたり、昇進やプロジェクトへの積極的な関与を控えたりするなど、自身の職務範囲を明確に区切って働く姿勢です。
これは単なる「やる気の欠如」ではなく、ワークライフバランスを重視し、心身の健康を守るための合理的な選択と捉えられています。過労や燃え尽き症候群を防ぎ、より持続可能で豊かな人生を目指す人々の間で広がりを見せています。
2. なぜ今、静かな退職が注目されるのか?
静かな退職が広がる背景には、長時間労働文化や成果主義、終身雇用制度の限界など、日本の労働環境の構造的課題があります。特にZ世代やミレニアル世代は、仕事を人生のすべてと捉える考えに疑問を持ち、家庭・趣味・学びなど多様な価値を重視する傾向にあります。
また、コロナ禍を経てテレワークが普及したことにより、「働き方」そのものに対する柔軟な見直しが可能となりました。こうした時代背景が、「静かな退職」を後押ししているのです。
3. 世代別の傾向と背景
マイナビキャリアリサーチLabによる「正社員の静かな退職に関する調査2025年」では、正社員の4割以上が「静かな退職」に該当すると回答。その中でも**20代が46.7%**と最も多く、世代ごとに異なる理由でこの働き方を選んでいることがわかります。
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20代: 出世よりも自己実現や副業、自由な時間を優先。
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30〜40代: 子育て・介護との両立を重視し、過度な仕事から距離を置く。
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50代以上: 健康や安定を重視し、無理のない働き方を選択。
幅広い世代で「静かな退職」が浸透している現状は、もはや一時的なトレンドではなく、働き方の新常識になりつつあることを示しています。
4. 静かな退職のメリット
● 自分の時間を確保し、副業や投資に活用できる
本業のみに集中することで余剰時間が生まれ、副業や自己投資に取り組む余裕ができます。さらに、株式・不動産・インデックス投資などの資産形成の勉強にも取り組みやすくなり、経済的自立(サイドFIRE)への道を切り開くことにもつながります。
● 精神的ストレスの軽減と健康維持
過度なプレッシャーや期待から解放されることで、メンタルヘルスの安定につながります。これは長期的なうつ病予防や健康維持に寄与します。
● ワークライフバランスの実現
家庭・趣味・人間関係といった、人生の多様な面に注力する時間が増えます。生活の質の向上が見込まれ、人生全体の満足度も高まります。
● 燃え尽き症候群(バーンアウト)の予防
仕事に過度に依存する状態を防ぎ、持続可能でエネルギーを保てる働き方を可能にします。
● キャリアの棚卸と再設計の機会
静かな退職は、自分のキャリアを再評価するきっかけにもなります。自分に合った働き方や、将来の転職・起業のヒントを得ることができます。
5. 静かな退職のデメリットと課題
● 昇進・昇給のチャンスを逃す可能性
成果主義を重視する企業文化では、意欲的な姿勢が評価されやすいため、昇進・昇給の機会を失う可能性があります。
ただし、技術職や専門職においては、昇進よりもスキルを磨くことで高い評価を得られる場合もあり、自分の得意分野に特化できるという利点にもつながります。
● 成長の機会が制限される
挑戦的な業務に関与しないことで、スキルアップや人脈形成の機会が減る可能性があります。
● 周囲からの誤解や孤立のリスク
やる気がないと誤解されたり、評価が下がったりすることで、職場内での人間関係が希薄になるリスクもあります。
● やりがいの欠如
最低限の業務しか行わないことで、仕事への達成感や充実感を得づらくなる場合があります。
● 雇用の不安定さにつながることも
企業からの評価が低下することで、将来的な配置転換やリストラの対象になりやすくなるリスクも否定できません。
6. どのように向き合うべきか?
「静かな退職」を選ぶことは、自分の人生に責任を持つという意味でもあります。一時的な感情で選ぶのではなく、将来的なキャリア・経済的安定・幸福度など多面的な視点から慎重に判断することが重要です。
企業側も、社員が「静かな退職」を選ばずにすむよう、働きやすい職場環境の整備や公正な評価制度の導入、柔軟な働き方の提案が求められます。
7. まとめ:静かな退職は新たな働き方の選択肢
「静かな退職」は、現代の価値観の変化とともに生まれた、新しい働き方のひとつです。仕事中心ではなく、自分らしい生き方を追求する手段として、今後ますます重要性を増していくでしょう。
ただし、それを選ぶかどうかは個々の状況や目的によって異なります。短期的な快適さだけでなく、将来の展望や自身の成長も見据えた上で、「静かな退職」を有効な選択肢とするための判断が求められます。
参考・引用元
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マイナビキャリアリサーチLab「正社員の静かな退職に関する調査2025年(2024年実績)」
https://career-research.mynavi.jp/reserch/20250422_95153/ -
マイナビキャリアリサーチLab「静かな退職 なぜ起こる?-シリーズ「静かな退職」を考える1-」
https://career-research.mynavi.jp/column/20250509_96008/